細胞の寿命

再生医療を可能にするその元となる細胞を大きく分けると、ES細胞、胎児由来の細胞、成人由来の細胞ということになります。各細胞の寿命について見ますと、ES細胞は不死化しており寿命は問題になりません。
また、胎児から来ている細胞も分裂を止めてしまうまでの期間がヒトの寿命に対して十分に長いので、同じく問題にならないです。一方で、成人由来の細胞はEX VIVOでしばらくは分裂を繰り返すものの、比較的早く分裂を止めてしまうので、寿命という点では少々問題があるとおもいます。
ところで、なぜそれほどまでに細胞の寿命が大切かというと、人の臓器がとても大きいからです。例えば、肝臓、心臓などの臓器が十分に機能を果たすためには、心臓ならば大人の握りこぶしより少し大きいくらいの大きさが必要ですし、肝臓ならばそれ以上の大きさが必要になります。

不死化と腫瘍化

細胞の不死化が良いこととは言えません。それは、不死化と腫瘍化が紙一重だからです。例えば、ES細胞を標的とする臓器に紛れ込ませて、その臓器の中だけで細胞分裂を繰り返し、宿主臓器と共に機能していくことは非常に望ましいことです。しかし、限りなく増殖を繰り返したり、他の臓器に浸潤したりすることはだめですから、特にES細胞は多分化能をもっており、目的となる臓器などの細胞以外の細胞に分化していってしまう可能性もあるのです。
この点からES細胞は腫瘍化の第一歩を踏み出している、ということは否定できません。従って、ES細胞を臨床に応用していくためには、目的の細胞だけを選択できるような分化制御技術が必要です。その一つ目として、特別な分化誘導因子を加えて特定の細胞を得るという方法です。この手法で、今では神経細胞はほとんど選択できるようになりました。二つ目として、自立的にES細胞を分化させた後、特定の成長因子を加えて目的の細胞を得る方法です。
他にも色々な方法で分化をコントロールできるようになりました。ただ、その精度がやはり重要です。

再生医療 造血幹細胞

造血幹細胞を用いた再生医療を取り上げてみます。造血幹細胞は白血病の治療や再生不良性貧血の治療として、すでに20年以上にわたって臨床応用されています。まず、造血幹細胞というのは赤血球、血小板、顆粒球およびリンパ球のような血球の母細胞であるだけでなく、破骨細胞や肺胞マクロファージなどの組織のなかにある細胞の母細胞にもなっています。もちろん他の幹細胞と同じようように、ただ分化するだけでなく自己複製能も持っていることです。骨髄移植というのはドナーからの供与によって造血幹細胞を先の患者に移植しますから、一生にわたって血液細胞を供給していくことになります。
最近、造血幹細胞について注目されているのが造血幹細胞の可塑性であります。即ち、骨髄移植を受けた患者の肝臓の組織からドナー由来の細胞が見つかった、という報告です。
これは、必ずしも造血幹細胞が肝細胞に分化したということではなく、骨髄中に肝細胞のもとになるような組織幹細胞があった、などの可能性もあり、非常に大きな意味を持っています。